執筆者 : 奥田桂子(おくだ けいこ)
<いちご通信220号(2024年2月号)より抜粋>
もう来週には雪が降ろうかという頃、地下鉄に乗って出かけた。
わたしは子どもの頃から本当に方向音痴だ。空間認知能力があまりないみたいで、学校の中やお店の中でも迷う。
友人からも方向音痴のお墨付きをもらうくらいには方向音痴だ(笑)
笑っている場合ではなくて、これ、結構困る。
ちなみに、最近はなんとなくわかるようにはなってきたが地図も苦手。
そのかわり、道を教えてくれそうな人を探すのは得意な方かもしれない。
そのため、初めての場所や久しぶりに行く場所は1時間くらい余裕が欲しいところ。
今回の目的は札幌いちご会が主催する『虐待はなくならないのか』という講演会に行くためだった。
まずは最寄駅で地下鉄に乗るため乗車駅と降車駅でスロープを出してもらえるように、駅員さんに依頼する。
「すみません、〇〇駅までお願いしたいんですが。」
わたしにとってここまでは何ら変わりない日常であるため、お願いすればいつも通り乗れるとばかり思っていた。
そのため、わたしの頭の中は地下鉄を降りた後の目的地までの道のりの事でいっぱいだった。
すると駅員さんは
「すみません。〇〇駅はエレベーターの工事中でして。一つ前の駅で降車いただくか、事前に教えていただいていれば、車椅子のまま乗れるタクシーを手配できたのですが…。今から手配すると何時になるか分かりません!」
と言った。
「ちょっと考えます。」
(タクシー手配してくれるのか、そういう意味だったのかー。う、うん… そ、そうだよね。そんなすぐには手配できないよね…。)
確かにエレベーター工事があることは、以前から駅のエレベーター横に張り紙があって、知っていた。
しかし、「車椅子やベビーカーの方は駅員にお問い合わせください」というような一文が一番下にあるくらいで「事前にお知らせください」等と書いていた記憶はなく、別の裏ルートみたいなものがあるのかと思い、そんなに大ごとだとは思っていなかった。
まさか「車椅子ユーザーはその間、駅自体が使えないから、お問い合わせください。」という意味だとは捉えていなかったのだ。
(わたしのリサーチ不足もあったのかも…)
わたしは焦った。
その使えない駅からは直結でも、その一つ前からは歩いて20分くらいはかかる。
方向音痴のわたしはどれくらいかかるんだろう、辿り着けるのか。
早くしなければ間に合うものも間に合わない。
「一つ前の駅までお願いします。」
わたしは変な汗をかきながらこう答えた。
なんだか、モヤモヤが止まらなかった。
だからと言って目の前の駅員さんが悪いとも思わない。
時に強い言葉ではっきりと伝えることも必要だが…この場所で、喧嘩とか言い合いとかそういうのはどうしても嫌だなぁ。どう伝えればいいか。
少し考えて、地下鉄の車両がホームに差し掛かった頃。
「あの、よかったら張り紙のところに『車椅子の方はタクシーを手配いたしますので事前予約必要』みたいな案内があると嬉しいです。」と伝えた。
駅員さんは「分かりました。すぐにできるか分かりませんがそう言った声があった事、伝えておきます。」と言った。
本当に伝えてくれるんだろうか…。
迷いながらも40分くらいかけて会場に到着…!
様々な立場から虐待についての取り組みや考えを聞いて、改めて考える機会をいただいた。
迷ってもたどり着けてよかったと思った。
終了後、外はもう暗くなり始めていた。
暗くなって、また迷ってしまっては、家にたどり着くのはいつになるんだろう…。
そんな不安を抱えつつ、なんとか帰ることができた。
今回のような出来事は、運転が難しい車椅子ユーザーにとっては本当に困る事であると改めて感じた。
誰かが悪いとかではない、合理的配慮ってどこまで求めて良いものか。
本当に意味を成す合理的配慮のあり方を考えさせられた出来事だった。
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