北海道で相次ぐ、障害者虐待事件
執筆者:NPO法人 共生舎 藤本一貴(ふじもとかずき)
< いちご通信218号(2023年6月号)より抜粋 >
私は、札幌にある障害者が通所する事業所で働いています。縁あって小山内さんとつながり、いちご会によく遊びに行くように。冗談やたわいもない話から、介護に関する事や身近な困りごと・なやみなど話題は多岐にわたります。小山内さんとのおしゃべりは、いつも話題が豊富で勉強になります。
虐待事件もその話題の一つ。事件を耳にするたびに、腹が立つ。当事者の悔しい思いについて想いをはせる。こんな話題で注目されてばかりだったら、福祉の世界で働きたい人は増えることはないでしょう。福祉業界が自ら首を絞め、当事者の生活に影響を及ぼしています。
実は、北海道では2022年末から障害者虐待・人権侵害の報道が相次いでいます。西興部にある「清流の里」の虐待事件、江差「あすなろ福祉会」不妊処置問題、稚内「はまなす学園」虐待事件など。
今回の寄稿は、ピープルファーストの皆さんが江差・西興部の現地にて行なった抗議行動に私が同行していたことから、依頼をいただきました。私は、当事者・専門家でもない上に、文章を書くことも苦手。読みにくい文章になってしまう事をお許しください。
〈ピープルファーストが抗議行動を行った虐待事件について〉
江差町「あすなろ福祉会」の人権侵害
北海道江差町の社会福祉法人「あすなろ福祉会」(樋口英俊理事長)が運営するグループホームで、知的障害があるカップルらが結婚や同棲を希望する場合、男性はパイプカット手術、女性は避妊リングを装着する不妊処置を20年位以上前から条件化し、8組16人が応じていた。(共同通信 2022.12.18)
西興部村「清流の里」の虐待事件
西興部村にある知的障害がある人の支援施設「清流の里」では今年5月から6月にかけて、施設の男性職員6人が入所している13人に対し、身体的な虐待や心理的な虐待をあわせて38件行っていたことが確認されたという事です。具体的には、入所者を裸で長時間放置したり、器からこぼれた食事をそのまま食べさせたり、硬直している車いすの入所者の体を無理やり動かしたりする行為が行われていたという事です。
(NHK 2022.12.06)
〈抗議行動〉
まず、あすなろ福祉会への抗議は、23年1月12日にピープルファーストの北海道、大阪のメンバー20名程で法人本部に行き理事長との折衝を行いました。ピープルファーストのメンバーの訴えは「障害者だから、子育てができないと決めつけないで」「子供をつくれば、グループホームを出ていかなければならないと言われれば、従うしかない」「選択肢がない」「旧優生保護法と同じことやっている」と口々に伝えました。しかし、理事長は当事者の気持ちを振り払うように、自分たちのことを正当化した態度で「本人は同意している」「元々不妊手術と違い、体をもとに戻すことができる」「調査中の事は話せない。」「制度にないから子育て支援できない」と答えていました。その際にピープルファーストが出した抗議文・質問状に今も返答していません。江差町の返答は「人権侵害を前提とした質問にはお答えできません」という文章だそうです。
清流の里への抗議は23年2月6日に施設にて折衝しています。施設長は、丁寧に反省したような態度で、これからは「本人主体」でサービスを提供すると話していました。メンバーは「そもそも当事者たちはここへ来たくてきたのか?」「住みたくもないところで、虐待までされる私たちの気持ちがわかるか!」「あなたは施設に住みたいのか」「虐待した職員をすぐに辞めさせなかったのは、普通ではない」等と抗議しています。村役場との折衝で、課長が「施設でないと暮らせないひとがいますよね」と発言。役場の職員は、当事者のこと・支援のことを何も知らない。考えたこともない返答に怒りを爆発させていました。
〈当事者主体・自己選択・自己決定はできているか〉
両地域とも、過疎化が進んでいることもあり両法人は貴重な福祉資源であり、自治体にとっても収入源につながっています。清流の里は過疎対策で建設された経緯があり、建設に自治体から多くの費用が拠出され、いまでは人口の1/3が関係者であると言われています。あすなろ福祉会は、江差の中心に事業を展開しており、特に就労に力を入れています。入所、地域交流センターをはじめ、ホテル、温泉、パン工房、飲食事業など16事業所、グループホームでは包括型25か所、外部型12か所、認知症対応型3か所を展開させています。過疎地域でこれほどに雇用を生みだす法人ですから、自治体と施設の関係性は非常に強い状態です。
私は、これほどに自治体への影響力の持つ法人が、きちんと当事者の方を向いて事業をしているのか心配になります。当事者が主体的に生活を組み立てる事ができているのか疑問に思います。そもそも福祉サービスとは、当事者のために運営されるものです。しかし、事業を守るために当事者がいるという逆転した状態に陥っていないかと考えてしまいます。
本人から主体的に入所している人はかなり少ない。ほかの法人のサービスを知っているのかも、かなり疑問。就労・暮らし・相談も同じ法人のサービスを使っている中で出された条件を拒む事が出来る当事者がどれだけいるか。それは、本当に本人の意思、自己決定と言えるのか。清流の里施設長の言う「当事者主体のサービス」あすなろ福祉会理事長が言う「本人の意思」は、他の法人のサービスや暮らし方を提示したり、当事者が体験・経験を重ねた上で発言されたのだろうか。少なくともピープルファーストとの折衝で、両法人は回答できていないと感じています。
「障害者の友人がいますか。」
人権侵害・虐待事件が相次いでいるのに、多くの福祉関係者、障害当事者の運動、市民はこのことに声を上げない。他人事のように感じているのでしょうか。そんな時、この言葉を思い出します。大学の後輩が、論文の冒頭で書いた言葉です。私たちは分離教育の結果、障害者の友人が少ない。
私は、身近に障害者がいないのは、虐待問題に無関心であることに大きく関係していると感じています。この無関心は、虐待をいつの間にか無かったことにしてしまう。社会から障害者を置き去りにしてしまう怖い問題です。差別・虐待・人権侵害を減らすことができるのは、あなたが「障害者の友人を作る事かもしれない。
差別・虐待・人権侵害について考えるとき、障害当事者と一緒に考えてほしいのです。友人や家族が受けた虐待を放っておけますか?
命に優劣はない。自分らしく暮らしたい。それは、当然でわがままな事ではないですよね。脱入所施設・入所施設解体!地域で、いきいき・のびのび・ゆうゆうと暮らそう。
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