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  • 札幌いちご会 事務局

物理的な外出困難からの開放

執筆者 :  花田はるか(はなだ はるか)


<いちご通信221号(2024年6月号)より抜粋>




私が1年の中で一番待ち遠しくなる季節は春。

長い冬が終わり春になるということは、

車イスユーザーにとって物理的な外出困難からの開放の瞬間だ。


この北の大地には冬になると雪が降り積もる。

雪が道路に積もると、車イスのタイヤが埋まってしまい走れなくなってしまう。


たとえ、介助者がいても雪が積もった道路の上を

車イスを押して動かすのは容易ではない。


住宅街などロードヒーティングも無く、

除雪がしっかりと行き届いていない場所は

特に車イスユーザーの移動は困難になる。


日々、気温や天候で道路状況は変わっていく。

ちょっとでも気温が高いと雪がぐちゃぐちゃに溶け始める。

ぬかるんだ道は一番車イスが動かなくなってしまう。

 

本格的に雪が積もってしまうと、

まず自分のマンションの敷地から出られない。

物理的な外出困難になってしまう。


雪が積もっている最低3ヶ月は

強制的に引きこもるしかなくなる。

1年の内4分の1ほど外出困難になっているということになる。


私にとって、冬の始まりは、絶望の始まりだ。

冬は障害の無い人もタクシーの需要が高まるため、

出かけたいときにタクシーはなかなか捕まらない。


タクシーを捕まえるまでに2時間以上かかったことも過去にある。

それに併せて、前回書いたように

車イスユーザーのタクシー乗車拒否問題もあり、

車イスユーザーの冬の移動手段は無くなってしまう人も少なくない。


ちょっと近くのコンビニに行きたい・カフェに行きコーヒーを飲みたい・友達に会いたいなど、

当たり前にみんながしていることができなくなってしまう。


そんな当たり前の生活ができないとなると

どんどんストレスが溜まってしまう。

まるで、世の中から隔離され閉ざされた世界に

私だけ取り残されたみたいな気持ちになる。


インターネットなど様々なものが普及したおかげで、

欲しいものや必要なものはほぼネットショッピングや

ネットスーパーなどで手に入れることができる。


デリバリーアプリなどもかなり充実した世の中に

なったおかげで家から出れなくても、

食べたいものを食べることもできる。


でも、外出困難な部屋の中で買い物やデリバリーができたとしても

何かこころが満たされない。

実際に行って食べたり、買ったりしたいし、観たい映画にも行きたいし、 

もし好きなアーティストが冬にLIVEしに来たら私は行けないのかなとか、

次から次へと外に行けないことにネガティブなことばかり考え始めるのだ。


元々、私はそこまで体力がある方ではなく外出回数が多くない。

さらに、在宅勤務をしているため

家にいることが年間を通して多くはあるが、

外出困難となると、好きな時に出かけたくても出かけられないという

やるせない気持ちに陥る。


道路やマンションの敷地内の除雪には人手やお金がかかるため、

綺麗に除雪されている道路を保ち、

車イスユーザーが暮らしやすくするのは難しいだろうというのは理解しているが、

車イスユーザーも外に行きたい時だってあるんだよなと思ってしまう。

 

そんな葛藤しながら冬を閉ざされた部屋で乗り越え、迎えた4月。

最高気温が10℃を超える日もでてきてやっと雪が溶けた!

私は、この時をどれだけ待ち焦がれたことか・・・ 


久しぶりにオシャレ着を着て、綺麗に身支度をして外に出る。

当たり前のことがこんなにも嬉しいことだったのかと感じた。

閉ざされてた世の中とようやく繋がった気がした。

 

買い物に行ったり、友達と会ったり、

当たり前の生活を送れる喜びは言葉では書き表せないかもしれない。

いつでも好きなときに外に出られるという事実があるだけで、

不思議と気持ちが軽くなる。


もう二度と雪は降らないでくれ。

こころからそう願う。

無情にも冬になればまた雪は降り、また外出困難になるだろう。

 

でも今は、今だけは、雪のことは考えたくない。

忘れてしまおう。

だって、せっかく開かれた世界を満喫したいから。


 





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