2026年1月なぜ選挙に参加できないのか
小山内 美智子 (おさない みちこ)
<いちご通信227号(2026年6月号)より抜粋>

(この記事は、2026年2月8日におこなわれた「第51回衆議院議員選挙」の前に体験された内容をもとに執筆されました)
選挙に行くのは命がけ
障がい者手帳に「上肢機能障がい1 級」という言葉が書いていなかったので、
私は家で郵便投票による選挙ができない事がわかった。
障がい者手帳に書かれたことに疑問をもたなかった私も悪かったのだろうか?
このような経験が初めてだったので、いまだに信じられない。
前の手帳では「脳性マヒによる四肢マヒ」で全て通ったのである。
私は52年間、選挙を棄権したことはない。
以前は足指を使い、新聞紙で投票用紙を隠しながら書いていた。
自分の足で書けたことが一番幸福であった。
しかし、脳性マヒは歳をとるごとに、障がいが重くなってくる。
それは医学的にも証明されている。
今現在は、投票所に行くと選挙管理委員会の方が2 人つき、
車いすを1 人が押して別の1 人が代筆をしてくれる。
大変便利の良い選挙になった。
たまにはおかしな人もいた。
候補者名を書く時、代筆をする人が候補者名を1 人ずつ指差し、
私が書きたい人を指さした時に「はい」と言うことで、書いてもらえる。
しかし、代筆する人が自分の入れたい6 番目の人ばかり指示して、
「これかい?」と書きたいようなそぶりを見せた。
私は(おかしい!)と思い、大きな声で
「この人、おかしいですよ!私が入れたい人の名前を言っているのに、
6 番目の人ばかりを指すのです!」
と言うと、何人かの選挙管理委員が来て、すぐに人を代えてくれた。
選挙は本当に難しい。命がけの闘いだと身体で感じた。
良い制度ができても、必ず悪用する人がいる
字が書けない人の選挙は、昔は親や兄弟や近くにいる人に書いてもらうと、
書く人の意見に変えてしまうことが多々あったらしい。
私が20歳前の頃(昭和49年)、札幌に「アカシア会」という障がい者団体があり、
その人たちが「身体に重い障害があっても選挙に参加しよう」という運動をおこなった。
その影響で昭和49年の公職選挙法改正により、
投票所に行けなくても投票ができる「郵便投票制度」がつくられた。
当時はまだ私自身、選挙に行けない歳だったので、
重い障がいのある人たちがどのように代筆してもらっていたのかはわからない。
当時はヘルパー制度がなかったので、
字が書けても歩行が難しいために投票所へ行けなかった人もいた。
この問題は障がい者、手足が使えない人たちの選挙制度がどうであったのか、
歴史を紐解いていかないとわからないと思う。
「郵便投票制度」はとても便利の良い制度であったが、
その制度も悪用する人がいたのか?なぜ変わってきたのか?
そのことを知っていかないとならないと思う。
深く追求していくと、国会や厚生省の人達がよく考えていなかったようだ。
すごく難しい問題になってきた。
今回の選挙(第51回衆議院議員選挙)は真冬に行われ、
雪があり投票所へ行くことが大変なので、
私はただ簡単に家で投票したかっただけなのだ。
しかし弁護士さんに相談すると「裁判になるかもしれないね」と言われ、驚いた!
裁判までいかなくても、障がい者手帳を書き直すように国から教えてほしいだけなのだが、そういうことに配慮がまるでない。
ただ私は、身体が弱って膀胱が悪いのですぐトイレに行きたくなる。
病院に行っても玄関に雪があり、
ヘルパー1 人では時間がかかり病院に入っていけないことが現実だ。
その時、おしっこが漏れてしまうと怖い。
だから郵便投票をやりたかっただけなのだが、
今回のことを経験して初めて、
私は「国民は法律に縛られて生きている」ということを実感した。
読めなくてもいいから書いてください
札幌市西区の選挙管理委員会に
「郵便投票をやりたいのですが」
と訊いたところ、
「障がい者手帳に上肢機能障がい1 級または視覚障がい1 級と書いていなければ、
郵便投票はできません」
と言われた。(※)
自分で書くなら郵便投票ができるとのことで、
選挙管理委員会の人は「読めなくてもいいから書いてください」と言った。
その言葉に私は驚いた。
私には、ちゃんと誰に投票したい、という気持ちがあるのだ。
読めない字で書いても無効票になってしまう。
「障がい者は投票しなくて良い」と言われているように感じた。
そのような事は、72年間、脳性マヒ者として生きて、何度も言われているような気がする。
※郵便投票ができる「肢体不自由」の基準は、法律で以下のように定められている。 ▶ 両下肢(足)、体幹、移動機能の障害: 1 級または2 級 ▶ 上肢(手)、乳幼児以前の非進行性の脳病変による障害: 1 級のみ 今回の件において選挙管理委員会の担当者は、 身体障害者手帳の「障害名」の欄に「上肢機能障害1 級」という文言が 直接記載されていないため、 「基準を満たしていると確認できない」と判断した可能性が高い。 |
障がい者こそ選挙にいかなければいけない
札幌市西区選挙管理委員会の担当者は、
最後に電話で「そのような苦情はたくさん来ている」とはっきり言った。
札幌市西区だけでも苦情がたくさん来ているのなら、
全国中の選挙管理委員会にも苦情や疑問が来ているのだ。
その二つの言葉を聴いて、私は呆れ返り、泣き寝入りはいけないと思ったのだ。
選挙管理委員会の方が余計なことを言わなかったほうが、
この問題は静かに終わったのかもしれない。
全国から何人くらいの人が怒りの電話をかけているのか知りたい。
でも、選挙管理委員会は絶対に発表しないだろう。
こんな真冬に選挙をおこなおうとした、高市早苗さんに責任があるような気がする。
どこで誰が責任を負ってくださるのだろうか。
障がいのあるなしに関係ないと思う。
有権者が「選挙をしないことにした」と言えば、その闘いは終わる。
私自身、今はそれでもよいと思っている。
でも、在宅で過ごしている障がい者たちは、ヘルパー制度を利用し国の予算をたくさん使っている。
だからこそ、選挙に関わらなくてはいけないと思う。
ヘルパー制度の今後を決めるのは国会なのである。
だから障がい者こそ、選挙に参加するべきだと思う。
私は、ただ生きていたいから選挙に行くだけなのだ。
全国民は「なぜ選挙に行かなくてはならないのか」ということを、
投票所に行く前に歩きながら考えるべきだと思う。
障がいのない人も、これから年をとり障がいを持ってしまうと、
家族やヘルパーにケアを受けるか?老人ホームに行くか?
と考えなくてはいけないときが必ずやってくる。
今は障がいのない人たちが、老後の運動をしていく必要がある時代だと思う。
元気でころっと死ねたら一番よいのだが!
その予想はできない。
食べ物の値段が上がって、若い人は結婚に興味がなくて、
あと30年くらい経ったら日本はどうなっていくのだろうか?
若い人が教育を正しく受け、日本の未来に夢をもち、
やりがいのある仕事をたくさん作っていくことが、政治のやることだ。
お金は必要だと思うが、全てお金にしてしまうと間違った方向に行ってしまう。
選挙管理委員会の人が「読めない字でもいいから書いて送って」と言ったが、
その票は無効になる。
その言葉を、ためらいもなく選挙管理委員会の若者が言ったことは許されない。
詫び状が届いたが、障がい者に接したことがないからこそ、簡単に使える言葉なのだと思う。
選挙管理委員会の人達は選挙がないときは何をしているのかと、漠然と考えてしまった。
特別な資格があり働いているのかと思ったが、
実際に会って話してみると、市の職員が色々な部署から集まって
選挙管理委員会を設置していることを知った。
選挙が終わり、私は彼らの所に3 回行って、
障がい者の選挙とはどういうことなのかということを演説してきた。
彼らには有難迷惑な時間だったと思う。
「私は障がいが軽い時には足指を新聞紙に隠し、候補者の名前を書いていました。
しかし今は書けません。
だから手を使い自分で書ける人と書けない人の気持ちが両方わかるのです」
と言うと、
「読めなくてもいいから書きなさい」と言った人が私の言葉に深く頷いた。
その表情を見て、私は人を責めても変わらないことを知った。
私が傲慢だったことに気づいた。
自分たちの気持ちを伝え続けないと、選挙管理委員会も変わらないと思った。
深く頷いてくださった彼の目は輝いていた。
これが人間の真の会話かも知れないと、嬉しくなった。
彼は障がい福祉課にいた人だという。
「また、帰って一緒に話をしましょう!札幌の福祉を明るくしましょうね。」
と言ってきた。
この件の経過
2026年1 月23日、
「代理記載制度」について札幌市保健福祉課に問い合わせをしたところ
「できない」という結論だった。
しかし、国会議員の木村英子氏の秘書より以下の説明があった。
「公職選挙法施行令第59条の3 - 2 第1 項第1 号」の記載によると、
「身体障がい者手帳交付台帳を備える都道府県知事若しくは指定都市若しくは中核市の長が書面により証明した者」から証明書を出してもらうことで、
郵便投票の代理記載制度を利用できるようになる。
2026年1 月24日、上田絵理弁護士ご夫妻に相談した。
公職選挙法施行令第59条の3 - 2 第1 項第1 号の代理記載制度を利用し、
投票権が得られるのであれば投票をする権利は守られているが、
「この制度を選挙管理委員会に問い合わせた際に、
公職選挙法施行令第59条の3 - 2 第1 項第1 号の代理記載制度の説明をして頂ければ良かった」
と上田弁護士からの助言を受けた。
その後、2026年1 月27日(火)札幌市選挙管理委員会から以下の回答があった。
【札幌市選挙管理委員会の回答】 現在、小山内さまが所持されている身体障がい者手帳 (体幹障がい1 級であることを示すもの)に基づく情報では、 法律上、上肢若しくは視覚の障がい程度が1 級と「同程度」と認めることはできませんので、 法律で定められた障がいの程度に該当すると証明するには 医師による診断書(身体障がい者手帳診断書・意見書)が必要となります。 診断書などを基に 上肢若しくは視覚の障がいの程度が1 級と同程度であるかどうかを審査することとなりますので、 現在のご自身の状態が、身体障がい者手帳における上肢1 級又は視覚1 級相当に該当するとお考えの場合は、 主治医に相談するなど障がい等級の変更申請を含め、 事前に下記担当課までご相談ください。 なお、審査には所定の時間を要しますので事前に下記担当課までご相談ください。 |
これを受けて、
札幌医科大学付属病院の土岐めぐみ医師が、診断書を急いで書き換えてくださった。
これにより札幌市西区保健福祉課の担当者が動いてくださり、
郵便投票をおこなえるようになった。
このほか北海道新聞と共同通信の記者さん達が情報をくださった。
私の郵便投票をおこなう為にたくさんの人が協力して動いてくださった。
すごいエネルギーだったと思う。
私は選挙ができることで喜びがあるが、
しかしすべての障がい者がこのようなエネルギーを使うことはできない。
今後法律により、
人間として誰でも選挙に参加できる制度を確立していかなければならないと思った。
その運動は時間がかかると思う。
国会の木村英子さんが頑張って下さると思う。
やはり国会に、障がい者がいると強い力になると思った。
今後もっと若い障がい者達が国会に行き、
日本人が歩きやすいバリアフリーの国になる為に活動していかなければいけない。
最後に、今回の件は大変なストレスがあり疲れたが、
苦しみの中に希望も少し見えた気がする。
2026年は「誰でも選挙ができるように」というタイトルで講演会をおこないたいと思う。
ただ怒ってはいけない。
選挙管理委員会の方を招いて、障がい者達が選挙にどう参加するか、
一緒に考えていきたいと思った。
悲しいことは決して無駄ではないことを知った。
講演会は2026年11月22日に札幌市内会場にておこなう。
障がい者問題ではなく、生きている人すべての問題として語り合いたい。
多くの方がご参加していただけるように準備をしています。



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